「kintoneに出荷や入荷の記録を入力しているのに、月末になるとまたExcelや会計ソフトへもう一度手入力している」
「現場は『入力が面倒だ』と言い、経理は『数字が合わない』と頭を抱えている」
日々の業務のなかで、こうした在庫管理の悩みを抱えていらっしゃる方は多いのではないでしょうか。
毎日忙しい現場を止めないように手を動かしながら、なんとか数字を合わせようと工夫されているご担当者さんの努力には、本当に頭が下がります。
私自身、現場の総務・経理として同じような手作業や二度入力の悩みに向き合ってきました。
非エンジニアの私でもkintoneなら作れるかもしれないと思い、最初は1つの在庫管理アプリで現場も経理もすべて賄おうとしたのですが、実はうまくいかずに何度も作り直した経験があります。
もちろん、今お使いのExcelや紙の台帳がだめだと言いたいわけではありません。ExcelにはExcelの手軽さという良さがありますし、少人数で扱う品目が限られていれば、1つの管理表で十分なケースも多いと思います。
ただ、もし社内で在庫管理の話がうまく噛み合わないと感じているなら、それはツールの機能や現場の頑張り不足ではなく、部署によって「見ている在庫の目的」が少し違っているだけなのかもしれません。
この記事では、アプリを作り始める前に一度立ち止まって整理しておきたい「現場」と「経理・経営」の2つの視点について、Hachidai Lab.の考えをお話しします。
目次
なぜ社内で在庫管理の話は「噛み合わない」のか?
社内で在庫管理の仕組みを見直そうとしたとき、現場とバックオフィスのあいだで、こんなすれ違いが起きることはないでしょうか。
たとえば、営業や製造の現場からは「細かい入力を増やすより、今すぐ出荷できる在庫があるかどうかが知りたい」「現場のスピードを止めるような管理は困る」という声が上がります。一方で、経理の立場からは「なぜもっと正確に入力してくれないのか」「1円のズレも出せない決算なのに、数字が合わなくて困る」という不満が出てきます。
お互いに会社をよくしたいと思って仕事をしているはずなのに、なぜか話が平行線になってしまう。こうした場面に直面して、モヤモヤした経験はありませんか?
ですが私は、これは誰かの性格や能力の問題ではないと感じています。単純に、それぞれの立場で見ている景色、つまり「在庫管理の目的」が違うからこそ起きる自然なすれ違いなのではないでしょうか。
在庫管理の本質は「数を数えること」ではなく「意思決定を支えること」
在庫管理というと、どうしても「倉庫にあるモノの数を正確に数えること」だと思いがちです。もちろん数を把握することは大切な土台ですが、もう一歩踏み込んで考えると、在庫管理の目的は「在庫という情報を使って、日々の判断や意思決定を支えること」にあると思っています。
たとえば、同じ会社のなかでも、部署によって判断したいことはこれだけ違います。
- 営業担当
今、お客様に「すぐ納品できます」と答えていいかを判断したい - 製造担当
明日、製造ラインを動かすための材料が足りるかを判断したい - 経理担当
今月、会社にいくらの棚卸資産があるかを正しく確定したい - 経営者
倉庫に在庫として資金が眠りすぎていないかを把握したい
このように、同じ「在庫」という言葉を使っていても、知りたい情報の細かさも、更新してほしいタイミングも少しずつ異なります。この違いをそのままにして「全社統一の完璧な在庫管理アプリ」を1つだけ作ろうとすると、現場にとっても経理にとっても使いづらいものになってしまうケースが多いのです。
台帳は「作る」ことそのものよりも、「壊さず、迷わず、安全に使い続ける」ことに意味があるという考え方です。
視点A:フロント部門(営業・製造・購買)の「止めないための在庫」
営業や製造、購買といったフロント部門にとっての在庫管理は、ひとことで言えば「目の前の業務を止めないため」のものです。ここでは1円単位の資産計算よりも、「今、動いている現場がすぐに判断できるスピード」が何より助けになります。
営業が見たい在庫
営業担当者にとって一番ヒヤッとするのは、「在庫があると思って受注したのに、倉庫を見たら実はなかった」という場面ではないでしょうか。
- 引当できる数の確認
注文を受けたときに、すぐ確保できる現物がいくつあるか - 納期回答の目安
もし今手元になければ、いつ入荷・生産できるか - 代替案の検討
欠品しそうな場合、別商品や分納の提案ができるか
お客様との信頼関係を守るためにも、営業の現場では帳簿上の理論値より「今、実際に使える数」をすぐに確認できることが求められます。
製造が見たい在庫
製造現場では、材料や部品が1つ足りないだけでライン全体が止まってしまうことがあります。
- 材料の過不足
これから作る製品の材料が当日分しっかり揃っているか - 段取りの調整
工程に合わせて、いつまでに部材を手配しておく必要があるか - 仕掛品の把握
加工途中の半製品がどの工程でどれくらい滞っているか
段取りの組み直しや納期遅れを防ぐためにも、製造部門は「欠品しないこと」に日々神経を配っています。
購買が見たい在庫
購買や発注の担当者にとっても、在庫の数字は毎日の発注判断のよりどころです。
- 発注点の把握
安全在庫のラインを割りそうな品目はないか - リードタイムの考慮
仕入先の納期を踏まえて、いつ発注を出せば間に合うか
フロント部門にとっては、たとえ端数の記録が少し後になったとしても、「今あるかないか」「明日使えるか」がその場でパッとわかるスピード感こそが、日々の安心につながっています。
視点B:経理・経営部門(バックオフィス)の「正しく測るための在庫」
一方で、経理や経営といったバックオフィス側の在庫管理は、「会社の数字(資産や利益)を正しく測るため」のものです。私自身も経理の実務に携わってきたからこそ痛感するのですが、ここではスピード以上に「後から振り返って説明できる正確さ(証跡)」が欠かせません。
経理が見たい在庫
経理の業務では、「だいたい合っているから大丈夫」というわけにはいかない場面が多々あります。
- 期末・月末の確定値
棚卸として確定できる正確な数量と金額はいくらか - 評価の根拠
どの単価や評価方法を使って資産価値を計算しているか - 差異の理由
帳簿の数字と実際の棚卸数がズレたとき、なぜズレたのかがわかる記録があるか
たとえば、実際の在庫が帳簿より10個少なかったとします。それが「入力漏れ」なのか、「不良品として廃棄した」のか、「紛失・盗難」なのかによって、会計上の処理や税務上の扱いが変わってきます。だからこそ、経理としてはいつ・誰が・どう動かしたのかという履歴を大切にしたいのです。
経営が見たい在庫
経営者の視点に立つと、在庫は倉庫にある「モノ」であると同時に、形を変えた「お金(資金)」でもあります。
- 滞留在庫の把握
長期間動かずに眠っている在庫がどれくらいあるか - 在庫回転率の確認
仕入れたモノが健全なペースで売上に変わっているか - 資金繰りの見通し
過剰な在庫によって手元のキャッシュが圧迫されていないか
100万円分の在庫が倉庫にある状態は、100万円の現金がそこに寝ているのと同じ意味を持ちます。現場が忙しさのあまり「入力は来週まとめてやろう」となってしまうと、経営や経理からは「今、会社にいくらの資産があるのか見えない」という不安が生まれます。ここが、現場とバックオフィスで温度差が生まれやすいポイントです。
身近な場面で考える「社内イベントのお菓子準備」の例
この2つの視点の違いを、もう少し身近な「社内イベントのお菓子準備」に置き換えて考えてみます。
イベントを楽しみにしている参加者(現場の視点)は、こんなことを気にします。
- 目の前の有無
「自分が食べたいチョコレートは今残っているかな?」 - その場の判断
「みんなの分は足りているかな?もう1個食べても大丈夫かな?」
一方で、イベントを企画・精算する運営担当(経理の視点)は、別のことを気にしています。
- 予算と記録
「決まった予算内で買い出しができたか?領収書と金額は合っているか?」 - 残数の評価
「余ったお菓子はいくら分あるか?次回のイベントに回せるか?」
もし、参加者が楽しくお菓子を手に取ろうとしている横で、運営担当が「チョコを1個食べるごとに、単価と日時を1円単位で台帳に記入してください」と求めたらどうなるでしょうか。きっとその場の空気は重くなり、イベントそのものが進まなくなってしまいます。
ですが反対に、何の記録も残さずに好き勝手に袋を開けてしまえば、予算がどうなったのかもわからず、次回からの開催が難しくなってしまいます。
「現場の動きやすさ」と「バックオフィスの正確さ」。どちらか一方に無理を強いるのではなく、この2つのバランスをどう整えていくかが大切だと思っています。
視点別:kintoneアプリのおすすめ構成案
では、kintoneを使ってこの2つの視点を無理なく両立するには、どうすればよいのでしょうか。
私も最初は「在庫管理表は1つにまとめなければいけない」と思い込んでいました。ですが、1つのアプリで現場のスピードと経理の正確さを同時に追い求めると、どうしてもお互いが苦しくなってしまいます。
- 締め処理のジレンマ
経理が数字を確定させるためにデータをロックすると、現場がその間の入出庫を入力できなくなる - リアルタイム更新のジレンマ
現場が過去の入出庫データを修正すると、経理が見ている月末の在庫金額まで勝手に変わってしまう
そこでHachidai Lab.では、入力の入口(入出庫の履歴データ)は1つにしつつ、「現場が見る在庫表」と「経理が見る在庫表」を分けて用意するハイブリッドな構成をご提案しています。
一度入力した情報を、二度入力しなくていいようにすること。そのうえで、見る人の目的に合わせて集計のタイミングを分けるという考え方です。
【現場用】リアルタイム在庫表
現場が知りたいのは、1か月後の確定金額ではなく「今、この注文を受けていいか」「今日使う材料があるか」という即答性です。
- 主な目的
今目の前にある数を把握し、欠品や手配漏れを防ぐ - 更新のタイミング
入出庫を入力したその瞬間(リアルタイム) - 活用する連携サービス
gusuku Customine(カスタマイン)などのノーコードカスタマイズ
kintoneの標準機能だけでは、「出荷ボタンを押した瞬間に在庫数を減らす」「在庫がマイナスになりそうならアラートを出す」といった動きを作るのが少し難しい場面があります。そこにgusuku Customineを組み合わせることで、現場が画面を操作した瞬間に在庫数を反映し、スピード感を落とさない運用がしやすくなります。
【経理用】帳簿在庫表(受払簿)
一方で、経理が知りたいのは「月締めや期末の時点で、根拠をもって確定できる数字」です。
- 主な目的
締め時点の正確な数量と金額を確定し、資産評価や会計処理につなげる - 更新のタイミング
夜間や月次などの決まったタイミング(スケジュール実行) - 活用する連携サービス
krewData(クルーデータ)などのデータ集計プラグイン
現場が日々入力した入出庫の記録をもとに、夜間や月末のタイミングで「前月繰越 + 当月入庫 − 当月出庫 = 当月在庫」という計算を裏側でまとめて実行します。krewDataを使って定期的に洗い替え集計を行うことで、現場の入力タイミングに振り回されず、経理が確認しやすい受払簿を整えることができます。
このように、現場の入り口はひとつに保ちながら裏側の見せ方を分けるのも、一つの選択肢として考えてみてもいいのではないでしょうか。
無理なく始めて育てていくための3ステップ
いきなり大きな仕組みを作る必要はありません。Hachidai Lab.では、アプリを作り始める前に、まず次の3つのステップで社内の目線を揃えてみることをおすすめしています。
ステップ1:いま一番困っている目的を言葉にする
まずは自社のなかで、どちらの悩みを先に解消したいかを整理してみます。
- A:現場のスピードを優先したい(欠品を防ぎたい、在庫確認の電話や探し回る時間を減らしたい)
- B:経理の正確さを優先したい(月末の棚卸集計や、Excelへの転記・二度入力をなくしたい)
- C:両方とも整えたい(ただし、一度に全部やろうとせず順番に分けて進める)
最初から完璧な設定をつくろうとするのではなく、まずは一番困っているところから小さく始めて、実際に使いながら直していくことが大切ですね。
ステップ2:「誰が・いつ・何のために」見る画面かを分ける
営業の担当者には「今すぐ引き当てられる数」が見えれば十分ですし、経理の担当者には「単価と評価額」が見えれば安心です。
たとえば、1つの画面に営業用の項目も経理用の項目もすべて詰め込んでしまうと、「どこに入力すればいいのかわからない」「画面が縦に長すぎて見づらい」「間違えて別の列の計算式や数字を消してしまった」といった現場の戸惑いにつながりがちです。
kintoneの一覧設定やアクセス権をうまく使い、「入力する画面」はできるだけシンプルにしておく。そのほうが、現場にとっても迷わず安全に使い続けられる台帳になります。
ステップ3:kintoneで入口を整えて、専門システムで処理する
kintoneはとても柔軟なツールですが、すべての業務をkintoneひとつで完結させようとしなくても大丈夫です。
- kintoneの役割
現場の入出庫記録、引当状況の共有、例外時のコメントや承認など「日々の入口」を整える - プラグインの役割
gusuku CustomineやkrewDataなどで、入力の補助や裏側の集計を自動化する - 基幹・会計システムの役割
PCAクラウドなどの専門システムで、厳密な在庫評価や原価計算、会計仕訳を処理する
kintoneで入口を整えて、専門システムで処理する。この役割分担を意識すると、無理のないシンプルな構成が見えてきます。一歩目としては、ここが一番踏み出しやすいと思います。
まとめ:連携や仕組みづくりの目的は、その先にある
最後に、今回整理した「フロント部門」と「経理・経営部門」の2つの視点の違いを表にまとめました。社内で在庫管理の話し合いが堂々巡りになりそうなとき、お互いの立場をすり合わせるきっかけとして役立てていただければうれしいです。
「2つの視点」の比較表
| 項目 | フロント部門の視点(営業・製造・購買) | 経理・経営の視点(バックオフィス) |
| 主な目的 | 業務を止めないための在庫(欠品防止・納期回答) | 数字を正しく測るための在庫(資産評価・経営判断) |
| 更新の頻度 | 日次〜リアルタイム(今の状況を知りたい) | 月次〜期末(締め処理で数字を確定したい) |
| 管理の粒度 | 品目+ロット+保管場所(現物を探せる単位) | 品目+評価単価+棚卸差異(会計で説明できる単位) |
| 大切にする点 | スピードとわかりやすさ(現場がすぐ動ける精度) | 正確さと履歴の証跡(後から理由を説明できる精度) |
| よく見る指標 | 欠品件数、納期遵守率、発注点割れの有無 | 棚卸差異、滞留在庫の金額、在庫回転率 |
在庫管理の仕組みを整えることや、システム同士をつなぐことは、それ自体がゴールではありません。
本当の目的は、一度入力した情報を二度入力しなくていいようにすること。そして、現場も経理も「数字を合わせるための手作業」や「入力そのもの」を減らし、本来向き合いたいお客様への提案や、これからの経営を考える時間を増やすことにあると思っています。
まずは小さく始めて、現場に合わせて少しずつ育てていく。まずはそこからだと思っています。
Hachidai Lab.へのご相談について
「自社の場合は、現場と経理のどちらから手をつけるのがよさそうか迷っている」
「社内でうまく要望がまとまらないので、まずは話の交通整理から手伝ってほしい」
そんなときは、どうぞ気兼ねなくHachidai Lab.へお声がけください。ツールやプラグインを決める前の段階からでもどうぞ。相談内容がまとまっていなくても大丈夫です。同じバックオフィスの実務を経験してきた伴走者として、御社の現場に合った最初の一歩を一緒に考えるところからお手伝いできればうれしいです。
Hachidai Lab.(ハチダイラボ)
kintoneを活用した業務改善のパートナー。