「倉庫まで現物を見に行かないと、今いくつ使えるのかわからない」
「現場のExcel台帳に入力しているのに、月末になると経理の棚卸の数字とどうしても合わない」
日々の製造や出荷、そしてバックオフィスの業務のなかで、こうした在庫管理の悩みを抱えている方は多いのではないでしょうか。
現場の方も経理の方も、毎日なんとか数字を合わせようと丁寧に記録をつけているはずです。それでもズレが起きてしまうのは、担当者の注意力不足ではなく、「仕組み」の側に無理が生じているサインかもしれません。
kintoneは「日々の入出庫を記録し、現在の在庫数や棚卸差異を社内で共有する」という用途にとても向いています。
一方で、秒単位の在庫引当や、複雑な多階層BOM(部品表)、大量のバーコード高速処理までをkintoneだけで担うのは、あまり現実的ではありません。最初からすべてをシステム化しようとするのではなく、まずは「入庫・出庫・在庫表」の3つから小さく始めていくのがよさそうです。
この記事では、私自身もバックオフィスの実務者として向き合ってきた経験をもとに、kintoneが向いている在庫管理と、専用システムに任せた方がよい領域を整理しました。そのうえで、製造業の現場で一歩目を踏み出しやすい「3つの設計パターン」をご紹介します。
目次
在庫管理の本来の目的とは:数量把握と資産計算
「よし、kintoneで在庫管理アプリを作ろう」と動き出す前に、まず社内で揃えておきたいのが「何のために管理するのか」という目的です。
実は、一口に在庫管理と言っても、立場によって「見たい情報」は大きく異なります。 ここを同じものとしてアプリを作ってしまうと、「現場にとっては入力しづらい」「経理にとっては欲しい数字が出ない」というすれ違いが起きやすくなります。
在庫管理で知っておきたい「2つの視点」
社内で在庫を見る目は、大きく次の2つに分かれます。
- 現場の視点(営業・製造)
「今、使える数(実在庫・有効在庫)」 現場にとっての在庫管理は、ひと言でいえば「欠品と納期遅延を防ぐため」のものです。「今この瞬間、出荷できるか」「明日、製造ラインを止めずに作れるか」を判断する材料になります。 - 経理の視点(バックオフィス)
「締めて説明できる数(資産)」 経理にとっての在庫は、単なるモノの数ではありません。決算や税務、経営判断に直結する会社の「棚卸資産」であり、金額として正しく説明できる根拠が求められます。
この2つの視点の違いを知り、「どこまでをkintoneで担うか」を整理しておくことが、無理のない運用を続ける土台になると考えています。
それぞれの視点で「知りたいこと」「重視するポイント」「代表的な指標(KPI)」を、以下の表にまとめました。
| 比較項目 | 現場の視点(営業・製造) | 経理の視点(バックオフィス) |
|---|---|---|
| ① 知りたいこと | ・今、出荷できる数はあるか(有効在庫) ・工程を止めないための材料は足りるか ・どこに保管されているか(棚番・場所) ・いつ入荷・完成する予定か ・欠品の兆候はないか(発注点割れ) | ・月末や期末時点の在庫金額(資産評価) ・なぜ増減したか(購入・製造・出荷・廃棄など) ・棚卸差異の理由を説明できるか ・長期滞留や評価減の対象はないか ・監査や税務で説明できる履歴(証跡)があるか |
| ② 重視するポイント | ・更新頻度:日次〜リアルタイム寄り ・スピード:その場で入力・確認できること ・使える精度:判断に迷わない鮮度があること ・続く運用:入力項目が少なく負担にならないこと | ・更新頻度:月次〜期末(月締め処理が中心) ・正確性:1円単位で整合し、根拠が残ること ・締め処理:棚卸→差異確認→承認の流れがあること ・例外対応:廃棄・返品・不良も漏れなく記録されること |
| ③ 代表的な指標 | ・欠品件数 ・納期遅延の回数 ・発注点割れの件数 ・緊急発注の回数 | ・棚卸差異の金額・件数 ・滞留在庫の割合 ・在庫回転率 ・評価減の対象額 |
※この「2つの視点」の違いについては、以下の記事でも詳しく整理しています。導入前の考え方の整理として、あわせてご覧いただければと思います。 (関連コラム:kintoneで在庫管理を始める前に。「現場」と「経理」で話が噛み合わない理由と2つの視点)
Excel・紙での管理からkintoneへ移行する意味
もちろん、Excelや紙での管理がだめだと言いたいわけではありません。 ExcelにはExcelの良さがあります。品目数が限られていたり、管理する担当者が1〜2名であったりするうちは、小回りの利くExcelの方が十分なケースも多いと思います。
ただ、台帳は一度「作る」だけでなく、「壊さず、迷わず、安全に使い続ける」ことが大切です。 扱う品目が増え、現場と事務所など複数人でひとつのExcelを触るようになると、次のような困りごとが起きやすくなりませんか?
- 誰かがファイルを開いていて入力できず、紙にメモしてあとから二度打ちしている
- 計算式をうっかり消してしまい、いつの間にか合計数が合わなくなっている
- 「最新版のファイルがどれかわからない」と確認の電話やチャットが増えている
こうした状態からkintoneへ移行すると、日々の業務に次のような変化が生まれやすくなります。
1. 共有のタイムラグが減る(「最新はどれ?」がなくなる)
全員がブラウザやスマホから同じ画面を見て「今の在庫」を確認できます。現場と事務所、あるいは離れた倉庫間でも、同じ数字を見ながら話ができるようになります。
2. ズレた原因を追いかけられる(履歴が残る)
いつ・誰が・どのくらい入出庫したのか、修正した理由は何かといった履歴(ログ)が自動で残ります。「いつの間にか数がズレているけれど、原因がまったく追えない」という月末のストレスがぐっと減るのは、kintoneを使う大きな意味だと思っています。
3. 現場で入力が完結しやすくなる
事務所のパソコンに戻って入力し直すのではなく、現場でタブレットやスマホからそのまま記録できます。不良品や破損があった際に、スマホで写真を撮ってそのままレコードに添付できるのも実務では助かるポイントです。
「一度入力した情報を、二度入力しなくていいようにすること」。まずはここを目指すだけでも、現場と経理の双方にとって大きな負担軽減につながります。
正直にお伝えしたい、kintone在庫管理の「得意」と「苦手」
kintoneは何でも自動で解決してくれる道具ではありません。得意なことと、構造上どうしても苦手なことがあります。 ここを事前に把握しておくことが、「思っていたのと違った」という失敗を防ぐ一番の近道だと感じています。
kintoneが「得意なこと(向いている領域)」
kintoneは、「情報の記録・共有・見える化」がとても得意です。
- 自社の現場に合わせた柔軟な項目設定
品名や数量だけでなく、「素材・ロット番号・棚番・担当者・特記事項」など、自社の現場で必要な項目をドラッグ&ドロップで自由に追加・変更できます。 - 在庫の周辺業務とのつながり
単なる数の管理だけでなく、「発注申請」「入荷検収」「顧客ごとの修理履歴」「貸出管理」など、在庫の前後にある業務も同じkintone上でつなげて管理できます。 - 小さく始めて育てていけること
最初は「棚卸の記録だけ」、慣れてきたら「日々の入出庫も入力」、さらに定着したら「バーコード連携」といったように、現場のペースに合わせて少しずつ仕組みを育てていくことができます。
kintoneが「苦手なこと(専用システムに任せたい領域)」
一方で、kintoneは「複雑な自動計算・大量の高速処理」を標準機能だけでこなすのは苦手です。
- 複雑な原価計算・資産評価
「移動平均法」や「先入先出法」による厳密な評価単価の自動計算は、kintoneの標準機能では対応できません。
→ 「kintoneで入口(数量の受払)を整えて、専門システム(会計ソフトや販売管理・基幹システム)で金額計算を処理する」という役割分担をおすすめしています。 - 0.1秒を争う同時アクセス制御
ECサイトのタイムセールのように、残り1個の在庫に対して複数人が同時に引き当てを行うような処理(トランザクション制御)には向いていません。 - 大量・高速の連続バーコードスキャン
物流倉庫のように、1時間に何千回も連続でスキャンするような運用では、kintoneの画面処理が追いつかないケースがあります。また、保管場所が毎回変わる「フリーロケーション管理」を細かにやろうとすると、レコード数が急増して動きが重くなる傾向があります。
こうした領域が業務の中心になる場合は、無理にkintoneだけで完結させようとせず、専用の在庫管理システムやハンディターミナル連携ツールと組み合わせる選択肢を考えてみてもいいのではないでしょうか。
製造業で始めやすいkintone在庫管理「3つの設計パターン」
Hachidai Lab.では、現場の状況や品目数に合わせて、無理なくスタートできる3つの設計パターンをご提案することが多いです。
| パターン | 構成イメージ | 向いている現場・特徴 |
|---|---|---|
| パターン1 シンプル入出庫管理 | 商品マスタ+入出庫履歴(最小2アプリ) | 品目数が少ない現場、まずは「どこに何があるか」の記録から始めたい場合。 |
| パターン2 集計による在庫計算 | 商品マスタ+入庫+出庫+在庫表(+集計プラグイン) | 入出庫の頻度が高く、Excelでの集計作業をなくして現在庫を把握したい場合。 |
| パターン3 引当・仕掛品の見える化 | パターン2+受注引当・工程ステータス管理 | 受注から出荷までのタイムラグがあり、「有効在庫」や工程別の仕掛品を把握したい場合。 |
パターン1:シンプル入出庫管理
部品や商品の点数が比較的少ない現場向けの構成です。「商品マスタ」と「入出庫履歴」の最小2アプリからスタートします。 たとえば、1商品につき1レコードを作成し、その中のテーブル(明細行)に日々の入出庫を追記していく方法や、入出庫のたびに1レコードずつ登録してkintone標準のグラフ・集計機能で残数を確認する方法があります。
一歩目としては、ここが一番踏み出しやすいと思います。
パターン2:集計による在庫計算【実務でおすすめの設計】
「入庫アプリ」と「出庫アプリ」を分け、その差し引きによって「在庫アプリ」の現在庫数を更新する設計です。現場の入力画面がシンプルになるため、Hachidai Lab.でもよくご提案する形です。
ただ、ひとつだけ知っておいていただきたい点があります。 kintoneの標準機能だけでは、「別々のアプリ(入庫と出庫)の数字を自動で集計して、もうひとつのアプリ(在庫表)に書き込む」という処理ができません。
基本機能だけで工夫しようとすると、かえって現場の操作が複雑になってしまいます。
そのため、このパターンでは『krewData(クルーデータ)』や『gusuku Customine(グスク カスタマイン)』といった拡張プラグインを組み合わせるケースが多いです。
「追加の費用がかかるのか…」と迷われるかもしれませんが、毎月Excelへ書き出して集計し直す手作業がなくなり、いつでも正しい在庫数が見えるようになると考えれば、十分に検討する価値のある選択肢です。
パターン3:引当在庫や仕掛品(工程)の見える化
倉庫に現物(実在庫)はあっても、すでに別の注文で出荷が決まっている場合、「今ほんとうに使える数(有効在庫)」がわからないと欠品トラブルにつながります。 そこで、受注が入った時点で在庫を予約する「引当」の考え方を取り入れたり、製造の工程(プロセス管理)と連動して仕掛品の数を把握したりする設計です。
非常に便利ですが、最初からここまで作り込むと現場が迷いやすくなります。まずはパターン1やパターン2で「入出庫の記録が正しく回る状態」を作ってから、段階的に広げていくのが安心です。
失敗しないための「スモールスタート」4つのステップ
紙やExcelからkintoneへ移行するとき、最初から完璧な設定をつくろうとするのではなく、「まずは小さく始めて、実際に使いながら現場に合わせて育てていく」ことが大切です。
Hachidai Lab.では、次のような4つのステップで少しずつ進める方法をご案内しています。
ステップ1:準備と「棚卸」だけのデジタル化(現状把握)
日々の入出庫をいきなりシステム化する前に、まずは土台となる「マスタの整理」と、月1回などの「棚卸業務」からkintoneに触れてみる段階です。
- マスタデータの表記ゆれを整える
これまでのExcel台帳を見直すと、「M-001」と「m-001」、「ネジA」と「ねじA」のように、同じ部品でも表記がバラバラになっていることがよくあります。システムはこれらを別の部品として扱ってしまうため、最初にここを整えておくだけでも、あとからの手戻りがぐっと減ります。 - まずは月次の「棚卸」だけkintoneでやってみる
日々の入出庫はまだ変えず、月末の実地棚卸だけを「棚卸アプリ」に入力してみます。現場の方がタブレットやスマホでの入力に慣れる練習にもなりますし、これから在庫管理を始めるための「正しい初期在庫」を確定させることができます。
ステップ2:記録の一元化と並行稼働(小さく試す)
初期在庫が整ったら、「在庫の増減をkintoneに記録する」ステップに進みます。
- まずは標準機能で入力してみる
事務担当者だけでなく、現場の担当者にもスマホやPCから入出庫を入力してもらいます。「どの項目が選びにくいか」「現場の動線に合っているか」を実際に動かしながら確かめます。 - 1〜2ヶ月はExcelと並行して答え合わせをする
いきなり既存の台帳を廃止するのではなく、最初の1〜2ヶ月はこれまでのやり方と並行して回し、月末に数字が一致するかを検証します。「これなら大丈夫そうだ」と現場も経理も納得してから切り替える方が、結果的にスムーズに進みます。
ステップ3:集計の自動化と入力負担の軽減
「kintoneに記録する習慣」が定着してきたら、さらに入力を減らし、ミスを防ぐための工夫を足していきます。
- 在庫計算の自動化
プラグインを活用し、入出庫が登録されたら自動で在庫表の数字が更新されるように整えます。 - バーコード・QRコードの活用
手入力や目視での選択を減らし、スマホやハンディ端末でラベルを読み取る運用を取り入れます。「入力を減らし、考える時間を増やす」ためのステップです。
ステップ4:周辺業務との連携と分析
単なる数のカウントから、前後の業務フローや経営判断へとつなげていく段階です。
- 品質ステータスの管理
入庫時は「検査待ち」とし、品質管理の確認が終わったら「出荷可能」へ変わるような承認の流れ(プロセス管理)を組み込みます。 - 帳票の出力
納品書や現品票、ピッキングリストなどをkintoneのデータから直接出力できるようにし、転記の手間をなくします。 - 滞留在庫や受払の可視化
集まったデータをもとに、動きのない滞留在庫や月次の受払推移をグラフ・集計表で確認できるようにします。
運用を定着させるためのポイント
システムを整えるのと同じくらい大切なのが、「数が合わなくなったときのルール」を決めておくことです。 「実在庫とkintoneの数が違っていたら、誰に伝えて、どの画面から修正するのか」というアナログな約束事をあわせて作っておくことで、台帳が壊れず、長く使い続けられるようになります。
よくあるご質問(FAQ)
ご相談のなかで、よくいただく質問をまとめました。
Q. kintoneだけで在庫管理をすべて完結できますか?
目的が「入出庫の履歴を残すこと」「現在の在庫数を社内で共有すること」であれば、kintoneだけで十分に役割を果たせるケースが多いです。 一方で、厳密な原価計算(移動平均法など)や会計処理まで含める場合は、kintoneですべてを完結させようとせず、会計ソフトや基幹システムへデータを渡す役割分担にする方が無理がありません。「連携の目的は、システムをつなぐことそのものではなく、二度入力をなくして正しい数字を残すこと」だと考えています。
Q. 現場の担当者が入力してくれるか心配です…
入力項目が多すぎると、どうしても現場の負担になってしまいます。 最初は「品目・数量・入出庫の区分」など、本当に必要な最小限の項目だけにしぼって始めるのがおすすめです。「失敗してもよい場所で何度でも試せる」のがkintoneの良さですので、現場の方の声を聞きながら、入力しやすい画面に少しずつ直していくことができます。
Q. 棚卸や経理の月締め処理はどう設計すればいいですか?
「日々の現場の在庫」と「月末に経理が確定させる棚卸資産」は、少し切り分けて設計するのがポイントです。 kintone上に「棚卸アプリ」を用意し、帳簿上の在庫と実棚の数を比較して、「なぜ差異が出たのか(破損・計上漏れなど)」の理由を記録・承認する流れを作っておくと、経理側でも根拠をもって月締め処理ができるようになります。
Q. どれくらいの期間・費用感で始められますか?
基本まずはステップ1(マスタの整理と棚卸アプリ)や最小構成の入出庫記録からであれば、基本機能を中心に、短い準備期間で小さく試すことができます。 集計の自動化やバーコード連携などのプラグインは、最初からすべて契約するのではなく、「ここが手作業だと大変だから自動化したい」と課題がはっきりした段階で追加していく方が、無駄な投資になりません。
まとめ:自社に合った「ちょうどいい」在庫管理を
在庫管理の仕組みを見直す目的は、立派なシステムを導入することそのものではありません。 現場の方が「今いくつあるか」を迷わず確認でき、経理やバックオフィスの方が「月末に二度入力や原因探しで疲弊しない」状態をつくること。そして、「入力を減らし、考える時間を増やす」ことにあります。
高価な専用システムをいきなり導入するのはハードルが高くても、「まずは月次の棚卸だけ」「特定の部品の入出庫だけ」であれば、kintoneで小さく一歩目を踏み出すことができます。一つの選択肢として、考えてみてもいいのではないでしょうか。
Hachidai Lab.へのご相談について
「自社の場合は、どこまでをkintoneでやって、どこからを会計ソフトや販売管理に任せるのがいいのだろう?」 「今のExcel台帳をどうやって整理すればいいかわからない」
そんなふうに迷われたときは、仕組みやツールを決める前の段階からでも、どうぞ気軽にお声がけください。 Hachidai Lab.では、いきなりアプリを作り始めるのではなく、まずは今の現場のやり方やバックオフィスでのお困りごとを一緒にお聞きするところから始めています。
相談内容がまとまっていなくても大丈夫です。「まずはどの伝票1枚、どの台帳1つから見直せそうか」、実務者の目線で一緒に整理していければと思っています。
Hachidai Lab.(ハチダイラボ)
kintoneを活用した業務改善のパートナー。