「奉行クラウドを検討することになったけれど、どの製品が自社に合うのかわからない」 「見積もりを依頼したいのに、何を伝えればよいか整理できていない」
日々の経理や総務の業務を回しながらシステムの見直しを進めようとすると、こうした悩みを抱える方も多いのではないでしょうか。 現場で毎日伝票や集計表に向き合っていると、目の前の締め日を守るだけでも精一杯になりやすいですよね。
会計や給与、販売管理のシステムを見直すとき、私たちはつい製品の機能比較から始めたくなります。 ただ、その前に少しだけ立ち止まって確認しておきたいことがあります。 それは、今の業務がどう流れていて、どこで手作業や確認待ちが起きているかという点です。
私自身もバックオフィスの実務に向き合うなかで、最初はシステム選びから入ろうとしてうまくいかず、迷った経験があります。 ですが、今の業務の流れを先に書き出してみると、自社に本当に必要な仕組みが驚くほど見えやすくなるのではないかと感じています。
この記事では、奉行クラウドの全体像を整理したうえで、製品を選ぶ前に確認しておきたい5つの項目をご紹介します。 社内の打ち合わせでそのまま書き込みながら使えるチェックシートも、記事の最後にご用意しています。
目次
奉行クラウドとは?企業規模と用途で分かれるラインナップ

奉行クラウドは、株式会社オービックビジネスコンサルタント(OBC)が提供するクラウドサービスの総称です。 会計、人事労務、販売管理などのバックオフィス業務を、自社でサーバーを用意せずにインターネット経由で利用できます。
普段はひとくくりに「奉行クラウド」と呼ばれることが多いですよね。 ただ、奉行シリーズ製品ラインナップを見てみると、企業規模や用途によって大きく3つに分かれています。
| ラインナップ | 位置づけ | 主な対象 |
|---|---|---|
| 奉行iクラウド | SaaS型の基幹業務システム | 小規模・中小企業 |
| 奉行V ERPクラウド | SaaS型のERP | 中堅・成長企業 |
| 奉行クラウド Edge | 従業員が行う申請などの業務サービス | すべての企業 |



中小企業でまず検討対象になるのは、奉行iクラウドです。この中がさらに業務ごとのサービスに分かれています。
- 会計・税務:勘定奉行iクラウド、固定資産奉行iクラウド など
- 人事労務:給与奉行iクラウド、総務・人事奉行iクラウド など
- 販売・仕入・在庫:商蔵奉行iクラウド など
基幹業務システムとは、会計処理や給与計算、販売管理など、会社の大切な記録と処理を担う仕組みのことです。 つまり「奉行クラウドを入れる」といっても、実際には「どの業務を、どこまで対象にするか」を決める作業になります。
ここが決まらないまま製品比較を進めると、判断の軸がぶれやすくなってしまいます。 まずは自社のどの業務を整えたいのか、言葉にしてみることが大切だと思っています。
参考: OBC 奉行クラウドサービス一覧(2026年8月確認)
製品選びから始めると、前後の手作業が残ることがある
基幹業務システムが得意としているのは、ルールに沿って正確に記録・計算・集計することです。
一方で、その前後には、紙やExcelでの情報集めや確認、転記といった作業が残りやすいのではないでしょうか。
たとえば、現場ではこんな場面がよくあります。
- 販売管理システムに入力した売上データを、Excelの集計表へもう一度貼り直している
- 現場から紙やメールで届いた請求内容を確認し、会計ソフトへ手で振替伝票を起票している
- 勤怠の集計をExcelで組み直してから、給与ソフトへ手入力している
こうした作業に心当たりがある方も多いのではないでしょうか。
仮に月80枚の請求書を発行している会社で、1枚あたり3分の転記をしていたとすると、月に4時間が転記だけに使われる計算になります。
もちろんExcelや紙がだめだと言いたいわけではありません。
ExcelにはExcelの良さがありますし、少人数であれば柔軟に直せて十分なケースも多いと思います。
ただ、システムを新しくしても、「なぜ転記が必要なのか」という前後の流れが変わらなければ、この4時間はそのまま残ってしまいます。
システム導入の目的は、今の作業をそのまま新しい画面へ移すことではありません。
「一度入力した情報を、二度入力しなくていいようにすること」、そして「入力を減らし、考える時間を増やす」ことにあるのではないでしょうか。
Hachidai Lab.では、基幹業務システムと、その前後の業務を次のように分けて考えることが多いです。
| 領域 | 主な役割 | 向いている仕組みの例 |
| 入口・現場の業務 | 案件の進捗管理、現場からの申請・報告、確定前の情報集め | kintone、奉行クラウド Edge、整理されたExcel |
| 専門処理・記録の業務 | 確定した数字の仕訳・試算表作成、給与計算、請求・売掛管理 | 勘定奉行iクラウド、給与奉行iクラウド、商蔵奉行iクラウド |
「kintoneなどで入口を整えて、奉行クラウドのような専門システムで処理する」という考え方です。
この境目を先に意識しておくだけでも、製品選びの視点がぐっとクリアになると思います。
奉行クラウド導入前に整理したい5つのこと
では、デモを見たり見積もりを取ったりする前に、どんなことを確認しておけばよいのでしょうか。
Hachidai Lab.では、まず次の5つを書き出してみることをおすすめしています。
1. 現在の業務の流れ
まずは、対象業務の始まりから終わりまでを順番に並べてみます。
請求業務であれば、「受注内容の確定」「納品の確認」「請求書の作成」「上長確認」「送付」「入金確認」「会計への反映」までが一つの流れです。
このとき、システムの中だけを見ないことがポイントです。
その前後にある紙、メール、Excel、口頭での確認も含めて書き出してみます。
たとえば、次のような場面はないでしょうか。
- 営業担当者へ「この案件、もう請求していい?」と口頭で確認している
- メールで届いた変更連絡を、自分のメモ帳に控えてから入力している
- 上長に紙で印刷して見せ、ハンコをもらってからシステムを確定している
誰から情報が届き、誰が確認し、次に誰へ渡すのかまで書き出すと、作業が止まりやすい場所が自然と見えてきます。
一歩目としては、ここが一番踏み出しやすいと思います。
2. 元データとマスター
取引先、商品、部門、社員など、繰り返し使う基本情報を「マスター」と呼びます。
日々使っている台帳のなかで、次のようなことが起きているケースも多いのではないでしょうか。
- 同じ取引先が「株式会社A」「(株)A」など複数の表記で登録されている
- 部門コードや商品コードが、部署ごとのExcelで別々に管理されている
- すでに取引が終わった古いマスターが混ざり、どれを選ぶか迷ってしまう
台帳は「作る」だけでなく、「壊さず、迷わず、安全に使い続ける」ことが大切だと思っています。
新しいシステムへ移す前に、どのデータを正しい情報として扱うか、誰が追加・修正するかを決めておくと、導入後の手戻りを大きく減らせます。
3. 必要な帳票・締め日・確認期限
日々の入力だけでなく、最終的に「何を、いつまでに出す必要があるか」を確認します。
請求書、支払一覧、試算表、給与明細、在庫一覧などを洗い出し、あわせて月末締めや支払日、経営会議といった期限も並べていきます。
ここで意識したいのは、今の帳票の見た目をそのまま再現することがゴールではないという点です。
「その帳票を誰が、何の判断に使っているか」を確かめてみてください。
実際には使われていない集計表をやめたり、似た内容の表を一つにまとめたりするきっかけにもなります。
数字を作る作業そのものより、数字を見て考える時間を増やすための整理だと思っています。
4. 担当者・承認・例外処理
通常の流れだけでなく、迷ったときに誰が判断するかもあわせて整理しておきます。
請求金額を変更するとき、給与情報を修正するとき、取引先コードを追加するときでは、確認する担当者が変わるケースも多いですよね。
特に現場で困りやすいのは、通常どおりに進まない「例外」の場面です。
たとえば、次のようなケースで作業が止まってしまったという経験はありませんか?
- 請求書と受注データの金額や数量が合わない
- 必要な情報が締め日までに現場から届かない
- 一度確定した処理を取り消したい、または取込時にエラーが出た
こうした例外時の相談先や手順をメモしておくだけでも、「結局、詳しいあの人に聞かないと進まない」という属人化を防ぎやすくなります。
5. 移行するデータと残すデータ
過去のデータをすべて新しいシステムへ移せば安心、とは限りません。
移行するデータの量が増えるほど、確認や修正にかかる現場の負担も大きくなってしまいます。
もちろん、過去の履歴をすぐに見られる状態にしておくことは大切です。
ただ、すべてを新システムへ詰め込むのではなく、役割を分けるという選択肢もあります。
- 新システムへ優先して移すもの
取引中の案件、当期の仕訳、現在の社員情報、未入金の請求データなど - 旧システムや保管ファイルで参照するもの
過年度の古い明細データや、すでに完了した過去の履歴など
移す対象期間や、移行後の照合方法、旧データの保管場所を先に決めておくと、無理のないペースで移行を進められます。
なお、会計・税務・労務に関する書類やデータの保存期間については、顧問税理士や社会保険労務士などの専門家へご確認いただくのが安心です。
5項目のふりかえりチェックリスト
ここまでの5つの視点を、一覧表にまとめました。
現在の状況と照らし合わせながら、ざっと眺めてみてください。
| # | 整理したいこと | 確認の目安(決まっていますか?) |
| 1 | 現在の業務の流れ | 始まりから終わりまでを、紙・メール・Excel・口頭確認も含めて書き出せているか |
| 2 | 元データとマスター | どれを正しいデータとするか、誰が追加・修正するかを決めているか |
| 3 | 必要な帳票・締め日 | 出すべき帳票とその用途、数字が必要になる期限を並べているか |
| 4 | 担当者・承認・例外処理 | 通常どおり進まないときに、誰がどう判断するかを決めているか |
| 5 | 移行するデータと残すデータ | 新システムへ移す対象期間と、旧データの保管方法・閲覧期限を決めているか |
この時点で空欄が多くても、まったく問題ありません。
最初から完璧に埋めようとするのではなく、「まだ決まっていないことがどこか」がわかるだけでも、最初の一歩としては十分だと思っています。
社内の打ち合わせで書き込める版もご用意しています
社内で関係者と話しながらそのまま使えるよう、印刷して書き込めるチェックシート(無料)をご用意しました。
上の5項目を10個の具体的なチェック項目に分けたうえで、記事にはない次の2つの記入欄を加えています。
- 業務フロー記入欄:対象業務の流れを、1行ずつ順番に書き出せるシート
- 件数・時間の整理表:業務ごとの件数と時間を書き出し、どこから手をつけるか決めるための表
小さく始めるための4ステップ
最初から会計、給与、販売管理のすべてを一度に見直そうとすると、決めることが増えすぎて判断が止まりやすくなります。 まずは小さく始めて、現場に合わせて育てていく進め方が、結果的に無理なく定着しやすいと感じています。
具体的には、次の4つのステップで進めてみるのがよさそうです。
- 負担の大きい業務を一つ選ぶ
毎日または毎月、現場でいちばん手間がかかっている業務を一つだけ選びます。 - 手作業のボトルネックを見つける
二重入力、確認待ち、集計のやり直しが起きている場所を特定します。 - 基幹システムとその前後の役割を分ける
奉行クラウドが担う処理と、kintoneやExcelなど現場側の仕組みが担う範囲を切り分けます。 - 少量のサンプルデータで試す
実際の伝票数枚分のデータを使い、入力から確認、帳票出力、金額違いや取消といった例外修正まで試してみます。
最初から完璧な設定をつくろうとするのではなく、実際に担当者が触りながら直していくことが大切ですね。 「これなら毎月無理なく続けられそう」と現場で実感できてから、少しずつ対象を広げていくという考え方です。
3の「基幹システムとその前後の役割を分ける」考え方は、kintoneなど現場側の仕組みを併用する場合も同じです。この点は別の記事で改めて取り上げます。
まとめ:製品が決まる前でも、業務整理は始められます
ここまで、奉行クラウドを検討する前に整理しておきたい5つの視点をご紹介してきました。
システム導入や連携の目的は、新しいツールを入れることそのものではありません。 一度入力した情報を二度入力しなくていいようにすること、そして現場の皆さんが壊さず、迷わず、安全に使い続けられる仕組みをつくることだと思っています。
あらかじめ現場の業務の流れや帳票を整理しておけば、デモで確認したいポイントや見積もりの前提がぐっと具体的になります。 何より、「導入したのに手作業が減らなかった」というすれ違いを先に防ぐことができます。
Hachidai Lab.では、製造業の現場と、経理・総務などバックオフィス実務の両方に向き合ってきた立場から、業務の整理と運用の定着までをお手伝いしています。 2026年8月10日にOBCビジネスパートナーとなり、奉行クラウドについても導入前の整理からご相談を承れるようになりました。
もちろん、Hachidai Lab.は特定の製品を無理におすすめすることはありません。 すでにお使いのシステムや、他の仕組みのほうが合っている場合は、正直にそのようにお伝えしています。 業務を整えるための選択肢が一つ増えた、という形で受け止めていただければ嬉しいです。
ご相談の際は、もしお手元に次のようなものがあればお持ちいただくとスムーズです(同じ一覧が、先ほどの書き込める版にも入っています)。
- 現在使っている帳票(請求書、支払一覧、試算表などの現物または画像)
- 集計に使っているExcelファイル
- 月次の締め日や支払日がわかるもの
- 困っている場面のメモ(どの作業に、月どれくらい時間がかかっているか)
もちろん、これらが揃っていなくても、口頭でうかがいながら整理できますので大丈夫です。 製品を決める前の段階や、相談内容がまとまっていない状態からでもどうぞ。
Hachidai Lab.(ハチダイラボ)
kintoneを活用した業務改善のパートナー。