
「kintoneで在庫管理を導入したい」
この相談は、kintone界隈でも現場でも、必ずと言っていいほど話題になります。
結論から言うと、kintoneで在庫管理は“目的次第で”できます。
ただし「アプリを作れば終わり」ではありません。多くの現場がつまずく理由は、機能やプラグイン以前に “在庫管理に対する視点のズレ” を放置してしまうからです。
この記事では、実装の話に入る前に、失敗を防ぐために必ず押さえたい
「現場」と「経理(経営)」の2つの視点を整理します。
- 在庫管理の目的は、大きく2つです。
この2つを混ぜたまま「全社統一の在庫管理」を作ると、現場は「入力が面倒」、経理は「数字が合わない」となりがちです。- 現場:止めないための在庫(欠品防止・納期遵守)
- 経理/経営:正しく測るための在庫(資産・利益・キャッシュ)
- この記事でわかること
- なぜ在庫管理の話が噛み合わないのか
- 現場と経理が見たい“在庫情報”の違い
- 失敗しないための「目的を揃える」3ステップ
- 次にやること(実装に進みたい方へ)
- 視点が揃ったら、次は「どの設計で始めるか」です。
👉 kintoneで在庫管理|できること・できないこと・製造業の現実的な始め方(設計パターン1〜3)
- 視点が揃ったら、次は「どの設計で始めるか」です。
目次
なぜ在庫管理の話は「噛み合わない」のか?

社内で在庫管理の話をすると、こんな対立が起きることはありませんか?
現場(営業・製造)の不満
「そんな細かい入力より、今すぐ出荷できる在庫があるかどうかが重要なんだ!現場のスピード感を止めるような管理はしたくない」
経理部門の不満
「なぜ現場はもっと正確に入力してくれないんだ!1円のズレも許されないのに、適当な管理をされては困る」
お互いに「会社のために」仕事をしているはずなのに、なぜか話が噛み合わない。これは、性格の不一致でも能力の問題でもありません。
単純に、「見ている景色(=在庫管理の目的)」が違うから起こる現象なのです。
在庫管理の本質は「数を数えること」ではなく「意思決定を支えること」

まず、前提を揃えましょう。在庫管理というと、どうしても「倉庫にある在庫数を正確に数えること」だと思いがちです。もちろんそれは基本ですが、本質は「在庫という情報を使って、意思決定を支えること」にあります。
営業
「今、お客様に『売れます』と言っていいか」
を決めたい
製造
「明日、ラインを動かすための材料はあるか」
を決めたい
経理
「今月、会社にいくらの資産があるか」
を確定したい
経営
「在庫にお金が寝すぎていないか」
を判断したい
つまり、同じ「在庫」という言葉を使っていても、部署によって「知りたい情報(意思決定に使いたい情報)」が全く違うのです。
ここを無視して「全社統一の在庫管理システム」を作ろうとすると、必要な粒度も更新頻度もバラバラになり、必ず無理が生じます。
視点A:フロント部門(営業・製造・購買)の『止めないための在庫』

現場であるフロント部門の在庫管理は、ひとことで言えば「業務を止めない(欠品と遅延を防ぐ)ため」のものです。ここで最優先される価値は、厳密な資産価値計算よりも「今、動いている現場が判断できるスピードと可用性」です。
営業が見たい在庫
- 受注したときに、すぐ引当(確保)できる在庫があるか
- もしなければ、いつ入荷/生産できるか(納期回答)
- 欠品しそうなら、代替案を提案できるか
営業担当者にとって、最も怖いのは「在庫があると思って注文を受けたのに、実はなかった」という事態です。これは顧客からの信頼失墜に直結します。
そのため、「理論在庫」よりも「今、物理的に確保できる数」をリアルタイムに知る必要があります。
製造が見たい在庫
- これから作る分の材料が足りるか
- 工程や段取り上、いつまでに揃えるべきか
- 仕掛品や半製品がどこで滞っているか
製造現場にとって、材料切れによるラインストップは巨額の損失を生みます。人件費や光熱費が無駄になるだけでなく、納期遅延にもつながるからです。
そのため、彼らは「欠品」に対して非常に敏感です。
購買が見たい在庫
- 発注点(安全在庫)を割りそうか
- リードタイムを踏まえていつ発注すべきか
彼らにとって在庫情報は、顧客対応や製造ラインの「生命線」です。多少の誤差(たとえば端数の数え間違い)があっても、「今あるかないか」「明日使えるか」が即座にわかることが何よりも優先されます。
視点B:経理・経営部門(バックオフィス)の『正しく測るための在庫』

一方、経理や経営者などのバックオフィス側の在庫管理は、ひとことで言えば「会社の数字(資産・利益)を正しく確定するため」のものです。ここではスピードよりも「正確性」と「証跡(エビデンス)」が最優先されます。
経理が見たい在庫
- 月末・期末に棚卸として確定できる数量と金額
- 在庫評価(単価、評価方法、評価減の根拠)
- 帳簿残と実棚の差異(原因、承認、証跡)
経理の視点では、「だいたい合ってるからOK」では済みません。ズレがあれば「なぜズレたのか」を説明できる状態(証跡)が求められます。たとえば在庫が10個足りない場合、それが「盗難」なのか「入力ミス」なのか「廃棄」なのかによって、会計上の処理(勘定科目)が変わりますし、税務調査や監査でも指摘されるポイントになるからです。
経営が見たい在庫
- 滞留在庫(どれがどれだけ眠っているか)
- 回転率(在庫が健全に動いているか)
- キャッシュの圧迫度合い(在庫に資金が寝ていないか)
経営者は在庫を「モノ」ではなく「お金(資産・リスク)」として見ています。100万円分の在庫があるということは、100万円の現金が倉庫で眠っているのと同じです。だからこそ、フロント部門が「忙しいから入力は後でいいや」となると、経営側は「資産管理ができていない」「いくら金が寝ているのかわからない」と不安になり、ここに大きな温度差が生まれるのです。
身近な例で考える「イベントでの菓子準備」の在庫管理

この「視点の違い」を、身近な例で考えてみましょう。
社内イベントのために「お菓子」を用意したとします。
【参加者(現場)の視点】
- 「自分が食べたいチョコはあるかな?」
- 「人数分足りているかな?自分が2個食べても大丈夫かな?」
→ 関心事:「満足度」と「分配」
【運営担当(経理)の視点】
- 「予算内で買い出しできたか?」
- 「余ったお菓子(在庫)はいくら分か?次回に持ち越してコスト削減できるか?」
→ 関心事:「予算管理」と「資産価値」
もし、参加者が楽しくお菓子を選ぼうとしている時に、運営担当が横から「食べたお菓子の金額を1円単位で記録してください」と言ったらどうなるでしょうか?
イベントの空気はしらけ、楽しさ(=現場のスピード感)は損なわれてしまいます。逆に、どんぶり勘定すぎて予算を大幅にオーバーすれば、次回の開催(=会社の経営)が危ぶまれます。
「現場の利便性」と「経理の厳格性」。このバランスをどう取るかが、在庫管理システム構築の最大の肝なのです。
視点別:kintoneアプリのおすすめ構成案

では、具体的にどのようなアプリ構成にすれば、この「2つの視点」を満たせるのでしょうか?
ここで、多くの方が陥る罠があります。それは、「在庫管理アプリ(在庫表)は1つあればいい」と思ってしまうことです。
「在庫表は一つ」の限界
「現場のスピード」と「経理の正確性」を1つのアプリで同時に満たそうとすると、必ず無理が生じます。
- 経理のために締め処理(データロック)をすると、現場が入出荷入力できなくなり、業務が止まる。
- 現場がリアルタイムに入出庫修正を行うと、経理が見ている評価額が変動し続け、決算が確定できない。
Hachidai Lab.の結論はシンプルです。 「現場用の在庫表」と「経理用の在庫表」を分けて管理しましょう。
Hachidai Lab.推奨:ハイブリッド構成
それぞれの視点に特化した仕組みを、適切なツール(プラグイン)を使い分けて構築します。 「二重管理にならないか?」と心配されるかもしれませんが、データソース(入出庫履歴)は一つです。それを「どう見せるか・いつ計算するか」を分けるのがポイントです。
1. 【現場用】リアルタイム在庫表
現場が欲しいのは、100%の正確さよりも「今、作業してもいいか」の即答性です。
- 目的: 「今、目の前にある数」を知る。欠品を防ぐ。
- 更新タイミング: リアルタイム(入出庫入力の瞬間)
- 推奨ツール:gusuku Customine(カスタマイン)
- kintoneの標準機能だけでは、「ボタンを押したら在庫を減らす」「在庫がマイナスになるならエラーを出す(排他制御)」といった動きが苦手です。
- gusuku Customineを使うことで、画面上でアクションした瞬間に在庫数を書き換え、現場のスピード感を損なわないリアルタイム更新を実現します。
2. 【経理用】帳簿在庫表(受払簿)
経理が欲しいのは、リアルタイム性よりも「検証可能な正確さ」です。
- 目的: 「締め時点の確定値」を知る。資産評価を行う。
- 更新タイミング: スケジュール更新(夜間バッチなど)
- 推奨ツール:krewData(クルーデータ)
- 現場が入力した入出庫履歴を元に、夜間や月締めのタイミングで全データを洗い替え集計します。
- 「前月繰越 + 当月入庫 – 当月出庫 = 当月在庫」というロジックで再計算することで、現場の一時的な操作ミスやデータの不整合を排除した「正しい帳簿在庫」を生成します。
このように「現場はスピード優先でCustomine」「経理は正確性優先でkrewData」と役割と更新タイミングを分けることで、お互いの業務を邪魔することなく、スムーズな在庫管理が可能になります。
失敗しないための「目的を揃える」3ステップ

では、どうすればkintoneで失敗しない在庫管理ができるのでしょうか。Hachidai Lab.では、アプリを作る前に以下の3ステップで「交通整理」を行うことを推奨しています。
ステップ1:目的を言語化する
あなたの会社の在庫管理、まずはどちらの優先度が高いですか?
- A:欠品防止/納期遵守(現場のスピード優先)
- B:月末・決算の正確性(経理の正確性優先)
- C:両方(ただし、フェーズを分けて導入する)
ステップ2:「誰が・いつ・何のために」使うかを分ける
在庫情報は、利用者によって見たい項目が違います。
営業には「引当可能数」を見せ、経理には「在庫評価額」を見せる。kintoneならアクセス権や一覧設定でこれを出し分けることができます。「全部入り」の画面を作って入力を重くしないことが重要です。
ステップ3:入力は現場(kintone)でスピード重視、集計は裏側(プラグイン)で厳密に
ここが最も重要です。kintoneは万能ですが、全てを抱え込む必要はありません。
- kintone:現場運用の見える化、引当、入出庫の記録、例外処理、承認
- プラグイン/連携サービス:バーコード管理、帳票出力、集計自動化
- 基幹システム(PCA等):在庫評価、原価計算、会計仕訳などの高度な領域
この役割分担を明確にすれば、「kintoneで在庫管理」は非常に現実的で強力な武器になります。
まとめ:目的が整理できたら「具体的な型」を選ぼう

最後に、今回お話しした「2つの視点」の違いを表にまとめました。自社の在庫管理議論が噛み合わないとき、この表を見返してみてください。
フロント部門の視点
(営業/製造/購買)
- 目的
止めないための在庫(欠品防止・納期遵守) - 更新頻度
日次〜リアルタイム寄り(今の状況を知りたい) - 粒度
品目+ロット+保管場所(現物管理単位) - 重視する点
スピードと可用性(“使える精度”があれば良い) - 代表的KPI
欠品率、納期遵守率、発注点割れ
経理/経営の視点
(バックオフィス)
- 目的
正しく測るための在庫(資産評価・経営判断) - 更新頻度
月次〜期末(締め処理で確定したい) - 粒度
品目+評価単価+棚卸差異(会計管理単位) - 重視する点
正確性と証跡(“説明できる正確性”が必要) - 代表的KPI
棚卸差異損、滞留在庫金額、在庫回転率
次のステップへ
「視点」と「目的」が整理できたら、次はいよいよ具体的なシステムの形(パターン)を選ぶ段階です。 以下の事では、今回整理した目的に応じた「3つの導入パターン」や「おすすめの連携ツール」について、より実践的な内容を解説しています。
👉 kintoneで在庫管理|できること・できないこと・製造業の現実的な始め方
※kintone CaféでのLT記事はこちら(背景・ストーリーが知りたい方向け)
👉 kintone Caféで「在庫管理の2つの視点」についてLTした記事がこちら
Hachidai Lab.の無料相談のご案内
「現場と経理、両方の意見を聞いて交通整理をしてほしい」
「ウチの場合は、どちらを優先すべきか迷っている」
在庫管理プロジェクトは、システムを作る前に「社内の合意形成」でつまずくことがほとんどです。
Hachidai Lab.は単なる開発業者ではなく、貴社の「現場」と「バックオフィス」の間に入り、両者が納得できるゴール設定(要件定義)からサポートいたします。
まずは「社内で話が噛み合わない」という悩みだけでも、お気軽にご相談ください。
Hachidai Lab.(ハチダイラボ)
kintoneを活用した業務改善のパートナー。
